【家鳴り:篠田節子】読了メモ


読み終えて、思わず零れ出た一言。

「さすがです」

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とか言ながら、過去に読んだことのある篠田さんの作品は「神鳥-イビス-」の1作だけ。その1作を読んだ時に感じたのは、文章の圧というのか、生命力、パワー。そんなようなものをわたしは強く受けた。「神鳥-イビス-」はホラー作品で決してハッピーエンドではなかったのに、読了後には、広がる9のどんよりの中に、湧き上がる1の謎の活力を自分の中に感じて、とても不思議な感覚に浸ったことを忘れられない。その1作だけでも、この作家さん凄いな。好きだな、と思ったのだった。

それからしばらく。

他の作品も読んでみたいと思いつつ、すっかり月日は流れ、今。

ほんの数日前のこと。


半年に一度ほど覗きに行く毒舌ブログがあり、とある記事のなかで篠田さんの作品が登場した。それで篠田さんのことを思い出し、久しぶりに手に取ってみたというわけ。一番読んでみたいと思っている作品は、手に入れるまでに少し時間がかかりそうだったのと、結構な長編のようなので引っ越し等々もっと落ち着いてから読みたいという理由から、現在近隣の本屋さんに在庫があり「ホラー」ジャンルに分類されていた且つ短編集の「家鳴り」を購入してみた。


---▼収録作品(全7編)▼----------------------------------------

・幻の穀物危機:東京で大震災が起こり、東京から逃げ出してきた人たちと地方住民の話。

・やどかり:貧困家庭の娘と教育センターに出向中の役人の話。

・操作手(マニュピレーター):家庭内介護の話。介護する側とされる側それぞれから見える世界。

・春の便り:家庭内から締め出された老女(を見る第三者)の話。

・家鳴り:歪みの中の二人の話。

・水球:するりするりと落ちてゆく男の話。(気づいたら落ちていた、とも)

・青らむ空のうつろのなかに:実母から虐待を受け実父からとある村(施設)に入れられる少年の話。

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ホラーにジャンル分けされていたけれど、ホラーはホラーでも「人間ホラー」だった。そして、もれなく全て恐ろしかった。恐ろしくて悍ましくて気持ち悪くて。「春の便り」を除いて(これはややほっこりなラストだった)、1作品読み終えるたびに「うわぁ...」とか「きっつ~...」とか「えぇ...」とか。なんとも言えない後味の悪さと人間の恐ろしさに、何か一言でも声を発っしていないとやってられなかった。

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というわけで、おすすめです♡

読んで損はしないんじゃないかな、と思います。

「幻の穀物危機」なんて、きっとそう遠くない未来、リアルに起こりうることのように思います。大震災が起こらなくても、食糧危機やエネルギー問題は既に言われている事でありますし。こうなってしまったら、わたしはさっさとゲームから降りる降りたいなどと、平時の今は思ってますが、現実は果たしてどうなるでしょうね。人間、一皮剝けたら何に化けるかわかりません。自分は何に化けるのだろうかと考えてしまいます。


全7編の中で、身を捩りながら「きもいな~...!」と思わず声上げてしまったのは「やどかり」。こ~れはきもかった。戦慄のきもさ。娘の身なり風貌の描写も相まって、生々しく、なんかもう色々きもかった。一番自分が受け入れがたい気持ち悪さ気色悪さ薄気味悪さだったかもしれない。拒否拒否拒否拒否。他人との線引きの重要さを痛感再確認。断固としてお断り案件。皆まで言わない、読んでくれ。


「青らむ空のうつろのなかに」は、複雑でした。複雑だけど、よかったねとも思います。けど、複雑です。悲しくもあります。読んだ人で感想が違ってきそうな作品かもしれません。


といった具合に、いずれも後味悪くてバッドエンド、よくてメリーバッドエンドにも関わらず、やっぱり、心内に灯される1のパワーを感じるんですよ。不思議です。


少し話がずれるかもしれない上に、ソコと並べて話すなよと言われるかもしれませんが、BL漫画家の新田祐克先生の作品を読んだときと、ちょっと感覚が似てるような気がするんですよね。ツッコミどころ満載と言えば満載のはずなのに(「ちょwww」てなる。なるけども!!!)、野暮なツッコミなど許さないする気も失せるくらいに、火力が強いというか、火傷しそうな熱さ、灼熱にパワフル、、、いろいろ爆発しているんです。迫力(画力)に気圧されているのかもしれませんね。(因みにわたしは「男が男を愛する時シリーズ」と「春を抱いていた」を永遠に愛してます♡)


わたしは色々と突っ込みを入れてしまうタイプの人間ですが、新田先生の作品にしても篠田さんの作品にしても、そのツッコミを許さない圧といいますか、そういった領域を超えてくる熱、迸るパワーのようなものを感じます。これは作家さんや作品との相性もあるんだと思います。そして、わたしは相性が良いのでしょう。出会えてよかったと思います。読んだ後に必ず活力が湧くだなんて、とても助かります。笑


「活力をもらう」ではないんですよ。「どことなく湧いてくる」「なんとなく湧いている」んです。不思議な現象・感覚だな~と思いますが、とにかく、作品から迸る圧倒的パワーに毎度感服いたします。


小説(漫画でも何でも)世界にのめり込んだ後の爽快感というのは、大変気持ちがよいものです。やめられませんね。癖になります。たとえそれを逃避だといわれてもね。


さて、次が楽しみでなりません。


おわり。

月子