【屍鬼】読了めも(アニメもみた)

※ネタバレしてます※



2週間ほど前に、小野不由美:著【屍鬼】を読み終えまして。今しがた、アニメも見終えまして。

アニメについてはいろいろと思うところはあるにせよ、とりあえず、見終えた後のリアクションは原作の読了後と変わりません。「あぁ.........(顔を手で覆い吐いて出るのは深いため息。机に突っ伏し、しばらくの無言。)」でした。もう無茶苦茶に地獄絵図ですからね。ほんとうに。


◆あらすじ:

人口1300人の小さな村、外場村。外部からは1本の国道しか繋がっておらず、周囲から隔離され、土葬の習慣も未だ残っている。そんなある日、山入地区で3人の村人の死体が発見された。村で唯一の医者・尾崎敏夫は、このことに不信感を持つが、村人達の判断で事件性は無いとされ、通常の死として扱われた。しかし、その後も村人が次々と死んでいき、異変は加速していった。(Wikipediaより)

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自分なりに物語を要約するなら、、、(要約なんてできっこないけど)

ある日、外場村に他所から越してきた人間、と思いきや「屍鬼」だった一家(のようなもの)の手によってじわじわと村人が屍鬼化。屍鬼になると人間の血を餌にするため屍鬼は人間を度々襲撃。増殖していく屍鬼に村が乗っ取られそうになりかけたところで、怪異が始まったころから「おかしい」と疑い、ひたすら一人考え続けて暗躍決断をしていた村唯一の医者(尾崎先生)の策略によって、人間VS屍鬼の全面戦争が開始。殺戮に次ぐ殺戮で阿鼻叫喚の地獄絵図。最終的には村ごと燃えて「自分たちがやったことは一体なんだったんだ.....虚無。」状態な村人とともに、読者のわたしも虚無になった本。

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面白かったですけど、手放しに面白かったとは言い難いというか、言ってはいけないような難しい気持ちになる内容でした。


原作がウルトラ長編であることに加えて、中盤に差し掛かるまでのかなり長い間、多くの村人たちのなんでもない日常をミルフィーユのようにうすーくうすーく淡々と積み重ねていくだけ(に思えるような)単調さと、「ぜんっぜん!話進まないんだけど?!」というじれったさ。現実から目を背けて何もせず、誰かがなんとかしてくれるだろうと、何一つとして考えようとも行動しようともしない作中の村人たちへの苛立ちがあいまって、イライラに倦怠感に胸糞悪さにと、読み進めるには結構な根気を要しました。



際立って、室井静信氏。


ほんっとに。マジのマジにたいがいにしてくれと何度も思わされました。途中からはもはや駄々をこねているようにしか思えなくなり、劇中小説は「あーはいはいはいはいもうおたくの寝言に付き合ってらんないんだわ~~~~~」とほぼ読み飛ばし斜め読み状態に。尾崎先生の邪魔をするんじゃないよ。綺麗ごと野郎が。なーんてね。てへぺろ。(終盤には「まぁキミの言い分もわかるけどさ......」などと一瞬心が傾きかけたけど、最後にあの所業ですよ、、、「いや結局やるのかよ!お前www」な出来事により「やっぱりお前は許さんw」てなったよね。だいたい、自分が安全圏にいることをうっすらわかってそうなところも透けて見えて嫌だった。本人自覚なさそうでそれがまた腹立つw)


尾崎先生にも賛否あるのかもしれないですが、わたしは全然ありだと思いました。彼のやっていることはかなりのサイコだというのは認めます(アニメの生きたまま解剖シーンは中々にしんどかった)。しかし、苦悩した結果それを腹括って決断実行したことに拍手喝采を送りたいです。(でなければ、訳も分からんままとっくに全員死んでたろ)


などと、ぐずぐず言いつつ。かといって途中で投げ出す気にはならない不思議な引力により読み続け、後半は途中で止められなくなる怒涛の展開。そして結局、夜通し読み耽ってしまったのでした。


読了後はしばらく放心しましたが、物語の余韻が落ち着くころには謎の達成感に包まれて、自分で自分に感心したりなどし「よくぞ最後まで物語に振り落とされず読めたな?」と思いました。以前、ゴーストハント「海からくるもの」と「黒祠の島」を読んだとき、人間関係があまりに複雑で途中完全迷子になってしまった苦い経験をしました。その経験から今回の屍鬼も読み始め早々に「さては、これも人間多すぎ系だな???」と予見し、一人登場するたびにメモをとりながら読み進めたことが功を奏しました。メモをとること自体は途中でやめてしまったのですが(やめたんかいw)スタート地点で脳に作っておいた「一人一人に一瞬でも目を留める」という回路の入り口から、あとは勝手に一つ一つ一人一人がスルスル繋がっていくあの感じ。とてもよい体験でした。はじまりはいつも大事。


そしてこれだけは忘れずに讃えておきたいです。Team夏野の勇敢さを。本当に勇敢で有能で胸熱でした。どうしようもない愚かな大人たちに絶望しながら早々と見切りをつけ、自分たちで考え行動し出来得ることに最善を尽くすTeam夏野のパートは、着々と物事が進行していくのでストレスなく読み進められました。特に夏野くんの辛辣さは痛快で爽快!そんな彼らの勇敢さが、彼ら自身をより早く悲劇へと導いてしまうんですけれど、、、とにかく、Team夏野!めちゃくちゃ応援した!!ありがとう。(だから、アニメで(多分漫画も)夏野くんがリボーンするのは私的には違うと思った。彼はそうならないからこそ意味があると思うのに。)(※「Team夏野」という呼称は勝手に命名した。)


そして今日、アニメを見終えて。

いま一度、原作を読み返したくなりました。アニメで分かり易く思えた部分もありましたが、やはり物足りなさを感じずにはいられません。ただしグロさについては一等品、ひぐらしと張るのでは?と感じましたけど、どうなんでしょうか有識者の皆様。諸々の事情で薄味になり重厚感が損なわれるのは仕方のないことだと理解はしますが、原作なしにこの作品の神髄は伝わらない気がしました。というか、別物だと思った方がいいかもしれません。


読み終えた直後にはこんなことを言いましたが、アニメを見たことで、いかに辞書級に厚い”あの”重みが必要だったのかがよくわかりました。より際立ったと思います。ダイジェスト版も欲しい!必要だと思う一方で、ダイジェストはやはりダイジェストでしかないんだなと痛切に実感しました。漫画版はまだ見ていませんが、いずれ機会があれば読んでみたいです。ストーリーも大きく異なるらしいですし。


ところで、あのキャラデザは正解なんですか?(笑)


このアニメが放送されていた頃、終電で帰ってきてテレビをつけるとたまに放送しているところに遭遇したことが何度かあり「なにやら奇天烈なキャラ・恰好のグロアニメだな~?」くらいの認識は持っていました。というわけで、アニメ自体初見ではありませんでしたが、原作を知ってから見ると正直「?」と思わざるを得ません(笑)所々挟まれるコメディすれすれのような演出も何らかの意図を持ってなされたことだとは思いますが(セクシーランジェリーの彼女とか。アレなんなん...?苦笑)、屍鬼そのものの世界観空気感とはまったくの別物ですよね。明らかに「敢えて」そうしたのは分かるんですけど。漫画化する際に「原作をなぞるだけにしない」というオーダーが小野さんからあったそうなので、敢えて「原作とは別物」的な思い切った要素をふんだんに盛り込んだってことなのでしょうか。(あと、辰巳くんは思い描いていたビジュアルとあまりにかけ離れ過ぎていて、もはや別人という存在だった。ごめん。)


おわりに。

正義はとても恐ろしい。仏も鬼になる恐ろしさ。逆もまた然り。立つ世界によって見える景色はまったく違い、悪も正義も逆転する。「どちらかが正解だ」ともならない。


仮に外場村を屍鬼の楽園にできたとて、人間がいなければ屍鬼は生きることができず、いずれ他所にでて人間を狩る。そして人間をいつか狩りつくすと同時に屍鬼の滅びが始まる。屍鬼の滅びは初めから決まっている。屍鬼は屍鬼で、好んで屍鬼になったわけではない。けれども、やらなきゃ死ぬだけ。だから、人間は屍鬼を狩る。共存は不可能というどうしようもない悲しさ。


それを思ったうえで、自分の今置かれている状態での役割を理解して生きようとした人々に、わたしは心が向いてしまったことを正直に述べたい。(とは言っても、さすがに行き過ぎだったのも本当。けれど気が付かないんだよね、渦中にいると。目的が”殺す”って非常に恐ろしいのに、その恐ろしさは正義のオブラートに包まれて誰も気が付かないし正しいことをしていると思ってしまってもうわけわからん状態。正義の剣はあまりにも強力。簡単に振るえるものではない。人間の愚かさ醜さがこれ以上ないってくらい鮮明に描かれてたよね。人間ってほんとになんなんだろうね。)


すべてが終わるとき「村を守るためにとこれだけのことをしたけれど、村自体がこんな状態になってしまっては、住むことはおろか村に戻ることさえできないのに、自分たちは一体なにをしていたんだろう。なにを守ったんだろう。どうするつもりだったんだろう。」的な心情が綴られるのですが、それもとても印象的でした。わたしも「村を守る」という大義名分が謳われ繰り広げられる殺戮を夢中になってみていましたが、そう言われてみれば、確かに村そのものがあの有様では、土地としての存在は守れてもこれから人間が住むことは考えにくく、「はっ!」と狂気から目が覚めたというか、本当にどうしたらよかったんだろうと、何とも言えない空虚な気持ちになりました。


他にもいろいろと思うところはありますが、終わらないし語り尽くせないので、この辺りで終わりにします。以上、長編小説【屍鬼】(ついでにアニメ)の簡単な読了メモでした。


カラクリをわかってから読むとまた新しい発見や気づきがありそうで、いまから再読するのが楽しみです。


追伸。

再読の際には、まあ一応、静信さまの御小説もきちんと読ませていただこうと思います。


月子